「俺、妹いるんだけどさー」
そういえば、そんなこと言ってたっけ。手紙で知ったから“私”は知らないふりをし続けて「そうなんだー」と軽く返した。
「で、おかんがいなくて、ばーちゃんと親父と住んでるんだよ。そのばーちゃんがちょっと前に足悪くして、俺がいろいろ変わってやる羽目になって部活してる場合じゃなくなった、って感じかなー」
さらさらさら、と告げられる内容になにも返事ができなくて無言で彼を見つめる。
「続けたかったけど、どーしようもねーもんなー。これでも俺、結構将来有望な選手だったんだけど」
「——まだ、続けられるよ」
笑っている顔にどこか陰りを感じて、思わずそう言ってしまった。
彼が、そんなふうに気持ちを抑えているのは、似合わない。
だけど、なんでも口にできるわけじゃないのかも。瀬戸山だって、我慢とか、してるのかもしれない。考えてみれば、それも当然なんだけど……。
あまりにもいつも笑顔で、なんでも口にするから。
「え?」
「また、すればいい。続ければいいよ。今じゃなくても、続けることは、できるよ。また続けるなら、まだ終わってない」
瀬戸山の家の事情はよくわからないから、上手な言葉は出てこない。
他の人は、どんな言葉をかけるんだろう。どう言えば、笑ってくれるだろう。
「お前……」
ちょっと低くなった瀬戸山の声に、ビクリと肩が震えた。