……なにを言おうとしていたのかはわからないけれど、なにを言われたって別にいい。ただ、この場所であんな話をし始めるとみんなが気を使ってしまう。

せっかく、楽しく過ごしているのに。


「あ、なんか歌う? はい」


気づかないふりをして、タブレットを彼に手渡してみた。

そのまま話をされないように、目の前にいた友達に話しかける。なにを歌うかとか、最近はどんな曲が流行っているかとか。

瀬戸山はその後、なにも言わなくて、いつの間にか私の隣から違う席に移動していた。



「あー歌った歌った!」

「このあとどうするー?」


4時間のカラオケが終わって、もう空は真っ暗。
みんなは思った以上に打ち解けたみたいで、名残惜しそうだった。


「御飯食べて帰る?」

「あーいいね」

「ごめん、私帰るね」


盛り上がっているところ申し訳ないな、と思いつつさすがに口にする。
もう8時近く。用事があるわけでもないし、親に怒られる、なんてこともないけど……そろそろいいかな。


「えー、希美ちゃん帰るの?」


名前の知らない男の子が馴れ馴れしく名前で読んで、ちょっと笑顔がひきつった。



「ごめんね、明日朝から用事があって」


これは本当。
明日は朝から犬の散歩という大きなミッションがあるので。


「俺も帰るわ」

「え? 瀬戸山も?」

「あーそっか、もうこんな時間だもんなー」


時間を確認した瀬戸山に、友達は残念そうな声を発する。
けれど米田くんは納得したかのように「じゃあふたり気をつけてなー」と手を振って送り出してくれた。