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「あ、おかえりー」
教室に戻ったのは、授業の始まる5分前。
私の席の周りでは、江里乃や友達が輪になってお菓子をつまんでいる。
「教科書、机の上にあるよ」
「いつもありがと」
自分の席に腰を下ろして、ポケットの中に入れたままの紙を、さりげなくカバンの中に入れた。
「今日の曲もロックだったねー」
「あー、うん、リクエストで……」
本当は、私の趣味。
だけど、それを口に出して伝えることは出来なかった。
「そんなの無視すればいいのにー。誰も知らないでしょ、あんなの。希美がリクエストに応えてくれるから調子乗ってやり続けてるんじゃないの?」
「まあ、でも、たまには、ね」
かっこいい曲なんだけどなあ。
そんなことを思いながら、バカにするように笑う友達になにも言えずへらへらと、誰かのせいにして過ごす。
……こんなとき、瀬戸山みたいなやつだったら“俺が好きなんだよ”“かっこいいだろー”なんて堂々と言えるんだろうな。
話したこともないのに瀬戸山を苦手だと思う理由は、多分、ただ羨ましいだけ。
私にできないことを、いとも簡単にしてしまうだろうことが、妬ましいだけ。