泣いてしまいそうだったからトイレはちょうどいい。あれ以上瀬戸山と話をしていたらこらえきれなかったかもしれないし。

個室に入って深呼吸。
ゆっくり吸って、ゆっくり吐き出す。

別にいいじゃない、私が嫌われたって……。もうすでに嫌われてもおかしくない行為をしているんだから、いつか、遅かれ早かれ嫌われるんだから。


両手で顔を覆って、何度も深呼吸を繰り返した。
そして、何度も何度も自分に言い聞かせた。

少なからず傷ついた自分に、そんな資格ないよって、何度も。


私が今まで見ていた瀬戸山は、江里乃のことが好きな瀬戸山。かわいいなって思ったものは、江里乃のことを想う瀬戸山。


今日見た、私に向けられる顔は、全く違ってて、それを悔しいと思ってしまうのは、おかしいんだよ。


だって、瀬戸山は私のことなんてなんとも思ってないんだから。


「あ、おかえりー」

「ごめんごめん」


部屋に戻ると、相変わらず盛り上がっていて笑い声が響く。
瀬戸山の方に視線を向けることなく、米田くんの隣に腰を下ろした。


「なんか歌う? うるさいやつでも、しっとりでも」


あはは、と笑って彼からタブレットを受け取った。


「——なあ」


隣に人が座る気配。それが瀬戸山だってことは見なくてもわかる。


「ん?」


何事もなかったかのように視線を向けると、彼は少し戸惑った顔を見せた。