ああ、私はやっぱり、人にそんな印象を与えてしまうんだ。
相手に合わせて適当に過ごしているように見えるんだ。

……そうかもしれない。自覚だってある。だけど。

思ったことをすぐに、口に出来る人は、苦手だ。
私ができないから、余計に。羨ましくて、惨めになる。


瀬戸山にはわからない。私の気持ちなんて、絶対わからない。


なんで、ほとんど話したことのない瀬戸山にこんなこと言われなくちゃいけないんだろう。そりゃ、瀬戸山みたいに思いを口に出来る人からすれば……イライラするのかもしれない。

だけど、ほぼ初対面で、こんなこと言われるなんて。


瀬戸山が怒ってる理由は、江里乃のことだ。
私のさっきの態度なんてついでだ。リクエスト曲を江里乃の好みだと、そう思っているから、それをごまかした私に怒っているだけ。


でも、そんなのウソだもん。


本当は私が好きな曲。
江里乃の好きな曲じゃない。


——だけど、そんなこと、言えない。


「あれー希美? 瀬戸山も、どうしたの」


グラスを手にした優子に、私も瀬戸山も同時にびくりと体が跳ねる。


「どうかした?」

「え、ううん? なにもないよ? ちょっと、トイレどこかなって」

「ああ、あそこだよ。ほら」


咄嗟に口から出たでまかせに、優子は突き当りを指さして「もー本当に方向音痴だねえ」と笑った。


「ありがと、じゃあ、瀬戸山もありがと」


ペコリと頭を下げて用のないトイレに向かう。
瀬戸山は、どんな顔をして私を見ているだろう。ああ、また適当なこと言ってるなって、思ってるのかな。