やってしまった。
なんってバカなんだろう私は……。数日で忘れて普通に返事を書いてしまうなんて。

返事を取りに行って、すぐさま人通りの少ない階段の踊り場の壁にもたれ掛かってノートを捲った。そして“松本”の名前を見た瞬間我に返る。


素で返事をしてしまったことに今気づくって、どれだけ忘れっぽいの私は……。


あまりに、嬉しくて。
デスメタルが好きな人に、初めて出会ったから、思わずうれしくて我を忘れてしまっていた。そのくらい、返事を見たときは嬉しかった。

理系コースで声をかけられたことを忘れるくらい。


「フォローしようと思ってたのに、それも忘れてたとか」


はあっと自分の馬鹿さに呆れてため息をこぼしたけれど、幸い彼は気にしてないみたいだ。返事を見る限りは。

でも、字を見るとなんとなくわかる。
デスメタルが好きなんて、なかなかいない。しかも前に私が流した曲は洋楽のデスメタル。知っている人に出会ったのも初めて。それはきっと瀬戸山も一緒だと、思う。

文字を見るだけで、ちゃんと見たこともないのに瀬戸山の笑顔が見える。


嬉しいと、思った、と思う。
私と同じで。同じことで、同じように、嬉しいと思ったんだ。


今、まだ嬉しい気持ちがあるのは……趣味が同じだったから。そう、きっとそれだけ。


ぱたんとノートを閉じてポケットに忍ばせて教室に戻る。
口元が緩んでいる気がして、手で隠しながら。