笑顔でいてほしい。
喜んでいてほしい。

間違っているのはわかっているのに。
ごめんなさい、ごめんなさい。

心のなかで、何度も唱えた。


「今、江里乃忙しいみたいで……多分、そのうち、返事あると思う、よ」

「……そ、そっかー、いや、まあ、……そっかーよかったー」


震えそうになる声で、にこりと微笑んでみせると、わかりやすく明るい笑顔で彼が言う。
自分でもわかるくらい不自然な笑顔だと思うんだけど、そんなことに気づく様子はない。


「じゃ、えと、わりい」


さっきまで焦ってオロオロしていたのに、嬉しくてたまらないのがわかるほどの笑み。
今にも歌い出しそうなほど明るい。

自分に正直な人は、人のウソに気づかないものなのかもしれない。人がウソをつくなんて思ってないのかもしれない。


こっそりと隠していたノートを取り出して、諦めにも似たため息を落とした。


「……私ってこんなに、バカだったんだね……」


……彼は、今私と話したことなんてすぐに忘れるだろう。
江里乃のことで、頭がいっぱいだったから。

きっと、私の名前は知らなくて、江里乃のそばにいる女、というくらいの認識だと思う。
私の目の前で、私の目を見て話をしたけれど、私のことなんて、全然見てなかった。

そんなこと当然なのに、胸がチクチクと痛む。


とりあえず現状だけを考えようとふるふると頭を振る。
これからどうするか、と、返事をどうするか。今はそれをちゃんと考えなくちゃ。