「悩んでも仕方ないか」
瀬戸山を見習って、相手の反応を考えることをやめて、このまま伝えよう。
ごめんなさい、で十分だ。
ちょっと胸が痛むけれど……言いたいことはどんなに悩んでも変わらないもの。
お昼の放送の締めの言葉を告げてから、電源を落とした。
「——っわ!」
ドアを開けた瞬間に叫び声が聞こえてドン、と誰かにぶつかる。
職員室の近くとはいえ、あまり人が通らないことに油断して気をつけてなかった。
「あ、ごめんなさ、……い」
慌てて顔を上げて、思考が停止した。
目の前の……瀬戸山が驚いた顔で私を見ていたから。
な、んで、こんなところに!?
「あ、いや……わ、りい」
片手で口元を隠しながらそっけなくそう告げて、逃げるように踵を返した。
でも、見えた。
瀬戸山の顔が、ほんのりと赤く染まっていた。
なにあの顔。なんで、あんな顔を……。
釣られて私の顔も熱くなって、頬に両手を添える。不意打ちにも程がある。突然現れて、あんな顔を見せるなんて。
彼でも、あんなふうに赤くなったりするんだ……。
背中を見つめながら、不思議な気持ちがむくむくと膨らんでくる。
今、どんな顔をしているんだろう。