「さっきどうしたの、希美」


授業が終わるとショートボブの髪の毛を軽く揺らしながら江里乃が近づいてきた。

「ちょっとね……」と曖昧な笑みを見せながらこっそりとため息をこぼす。ラブレターもらって焦ってました、とは言えない。

本当に私がもらったのかもわからないし、冷やかされるのも困る。相手が瀬戸山だとわかれば騒がれるのは確実だ。


「なにがあったかわかんないけど、元気出して」

「ありがと。あ、んじゃ放送室行ってくるね」


時計を見ると、授業が終わってもうすぐ5分経ってしまう。お昼の放送時間までちょっとしかない。

急がなくちゃ。

持って来た教科書やノート、筆記用具を机の上にひとつにまとめる。

教室に帰れない私の荷物は、いつも江里乃が持ち帰ってくれていた。


「あ、ちょっと待って!」


踵を返したところで、ハッとして、ノートからしわくちゃになった手紙、いや、ラブレターをこっそりと抜き取ってポケットの中に突っ込む。

これがもしもイタズラであったとしても、瀬戸山の名前が入っているから、人目につかないほうがいい。


「じゃ、お昼の放送頑張って」

「ありがと」


私を送り出す江里乃に手を振ってから、お弁当の入った巾着だけを手にして駆け足で放送室に向かった。