・
気にしてみると、意外と瀬戸山を見かけることがあるんだと、今更気づいた。
登校時、私の乗る電車よりも数分早く駅につく向かいのホームの電車で学校に来ていることを初めて知った。
数メートル先に友達とのんびり歩いている瀬戸山の後ろ姿。
今まで気づかなかった。
2時間目の前には、移動教室なのか私達の教室の前を通る。
珍しいなと思ったら、優子が「このときくらいしか近づけないよね」と言う。つまり、毎週通っていたらしい。
5時間目、私が授業を受けていると、ちょうど体育の時間だったらしい瀬戸山が見える。
最近この窓際の席に変わったから、知らなかった。
それでももう何週間も見ていたはずなのに。
気にしないと、見えないものなんだなあ。
今までほとんど見かけない存在だと思っていたのに、そうでもない。
走り回っている理系コースの男の子の中で一番目立って見えるのも……私が意識しているから、そう思うだけなのかな。
「黒田ー、黒田希美ー」
「は、はい!?」
「ほら、この前の小テスト」
慌てて教壇に近づいて小さな答案用紙を受け取る。
そういえば先週英語の抜き打ちテストがあったっけ。点数は……抜き打ちにしてはそこそこ点をとれている。先生にも「黒田は英語に関しては校内トップレベルだな」と褒められて頬が緩んだ。
でもまあ、英語以外は並……いや、中の下かもしれないけど。
ほっとして席に戻ると、さっきまで校庭を走っていた瀬戸山たちは、サッカーを始めていた。