家に帰ってから、ひとりでルーズリーフに書かれた瀬戸山の文字を何度も見つめた。

初めてみるわけじゃないけれど“好きだ”から始まった会話。

今回がちゃんと会話になっているような気がして、今までと少しだけ違った気持ちで見つめることができる。


顔に似合わず、というのは失礼だけど、きれいな文字。
男っぽいけれど、きれいだ。私の少し丸みを帯びた文字と並ぶと余計に思う。


机の引き出しにしまっておいた、最初の手紙を引っ張り出す。

しわくちゃで、ラブレターとは思えないこのノートの切れ端だけれど、やっぱり捨てることはできなかった。


比べてみると“好きだ”と書かれたこの文字は、今回のものよりもきれいな気がする。ちょっと、固いのかもしれない。


……どんな人なんだろう。

私のことを好きだという。
今まで苦手だなって、それだけで見てきた人。


どんなことを思って、私を見つけたんだろう。
私の想像する瀬戸山からは、私を好きになるとは思えない。彼の目から、どういうふうに考え、思い、見て私を“自分がある”と感じたんだろう。

自分では思ったことのない自分の一面。
むしろ真逆だと思っていたのに。

違和感は抱くけれど、誰かの目にはそう映るのだと思うとうれしい。そんな人に憧れているから余計に。


「でも、だからってそれだけでつき合うとかは、違うよね」


口にして、うん、と自分で頷いた。
相手も私のことをよく知らないままには違いない。

知らないままつき合っても……うまくいかないことは経験済みだしね。


とはいえ、返事は一文字も思い浮かばないまま数時間。


「あー! もうやめやめ!」


これ以上考えたってしかたない。
どう答えればいいのかわからないんだもん。別に明日返事をしなきゃいけないこともない。約束しているわけでもないんだから。

月曜日になってしまうけれど、そのくらいは待っていてほしい。

諦めて布団の中に潜り込んだ。