「なに泣いてんの」

「……だって……」


——『誰が好きでもねえ女を家に呼ぶかよ。キスなんかするわけねえだろ』


「嬉しい……」

「……そりゃ、よかったな……」


瀬戸山はどこで泣いているのかわからない顔をした。
正直者の瀬戸山には、これがふつうのことなんだろう。

「ん」と差し出された手を、しっかりと握り返し、瀬戸山を涙いっぱいの瞳で見つめる。
ああ、夢じゃないんだな。冗談じゃないんだ。


「ウソが下手くそなお前に、馬鹿正直な俺からひとつ教えてやろうか?」

「……なに?」

「あの手紙が松本に渡っていたとしても、俺、多分お前のほうが好きになってると思うよ。机のあのコメント抜きにしても」


とびきり優しい笑顔と一緒に、ウソが嫌いで、物事をはっきりさせないと気がすまない瀬戸山がそう言った。


「最低だけどな」


自分でそう言える瀬戸山は、やっぱりすごいって思う。逃げないんだね、瀬戸山は。自分の気持ちをごまかしたりしない。だから、言葉にもできるんだろう。


「でも俺、そう思えるくらい、今、お前のことすげえ好きだよ」


真っ直ぐな言葉が、私の中に染み渡ってくる。
ああ、もう、私、瀬戸山に好きって、言ってもいいんだ。
自分にウソも、つかなくていいんだね。


「私、瀬戸山が、好き」

「おう!」


口にして、瀬戸山が満足そうに笑ってくれたから、泣きながら笑った。




ウソばかりだと思ってた。
だけど、瀬戸山は見つけてくれていた。私を、見つけ出してくれた。

かわした言葉も、残した文字も、ごめんね、ホントは全部ウソ。

だけど……ウソばかりだと思っていた中にも、私はちゃんと、いたんだね。
そう思っても、いいのかな。


“私”に渡されたまっさらのノートを抱きしめて、この白いノートをウソで汚さないようにしようと、思った。