相変わらず、彼の悩みに明確な答えも、アドバイスもできていない。
ただ、少しだけでも、彼の気持ちを楽にできたらいいなと、思った、んだと思う。

私も忘れているようなこんなコメントが、瀬戸山にとって多少なりとも記憶に刻まれるようなものだったなんて。

これを見て、瀬戸山は……わざわざ誰かを探しだしたんだ……。

そして、この席に座っているのが、江里乃だと思ったんだろう。
私はいつも、誰よりも先に教室を出て行っていて、代わりに江里乃が私の荷物をここで、まとめて持って行ってくれていたから。

ねえ、もしも。もしもこれを書いたのが私だってわかったら、私を……好きになってくれたのかな。

江里乃を見て、好きになったように……私のことを、好きになってくれたのかな。
そんな、たらればのことを考えて自分を慰める。

余計に虚しくなるだけなのに。


「……希美?」


近くに江里乃がやってきた。
俯いたままの私を心配するような声色に……涙が止められなくなる。


「ちょ、ちょっと!? え、っととりあえずほら、教室、教室戻ろう!」

「えりのぉ……」


私の涙に気づいた江里乃が珍しく慌てながら私の手を引く。
私が泣いているのを周りに見られないように、私を隠しながら。

辛い。どうしたらいいんだろう。
正直に言うこともできなくて、かといってウソをつき続けるほど強くもない。ただの弱虫。

江里乃に引かれながら歩いて、最上階の踊り場で立ち止まった。


「ここなら、誰も来ないから。どうしたの?」


くるりと私のほうに体を向けて、私を覗きこむ江里乃。
涙はまだ止まらない。