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……よし!
きょろきょろと周りを見渡して、人がいないことを確認してから瀬戸山の靴箱に紙切れを突っ込む。
そして瞬時に立ち去った。
悩んだ末に靴箱という安易な方法に落ち着いた。
人に見つからないよう、8時40分からホームルームだっていうのに8時前に学校に来る羽目になったのだけれど。
それでも誰かが見てしまうかも、と自分の名前は書かなかった。
全速力で廊下を駆け抜けて、誰もいない教室に入った瞬間にずるずると床に腰を下ろす。
走ったせいなのか、それとも、緊張からなのか、心臓がものすごい勢いで血液を体内に巡らせる。気持ち悪いくらい。
「渡しちゃった……」
……渡してしまった。渡してしまった!
自分の顔がまっ赤に染まっていることが自分でも分かるくらい熱を感じる。
すーはーと何度か深呼吸を繰り返し、自分の書いた返事をもう一度思い返してみる。
あんな返事とも言えないものだけれど、よかったかな。
やっぱりもっと考えた方がよかったかな。
でも、あの一言を書くまで費やした時間は、3時間。“気持ちは嬉しいけれど……”みたいな返事も書いたけれどどうもしっくりこなかった。
そもそも“好きだ”ってなんなの。
それを言われてどうしたらいいのよ!
“付き合ってくれ”とか書いていれば返事のしようもあるって言うのに……。言われてないのだから断るのもおかしい気がして、結局あんなバカみたいな返事に落ち着いてしまった。