3時間のテストをなんとか終えて、生徒会で呼び出しがあったという江里乃を残してひとりで教室を出た。

……とりあえず、勉強、しなくちゃ。

全く頭に入らないけれど、テスト前でなければもっと、いろんなことを考えてしまっていただろう。


「黒田!」


いつもの呼びかけに、戸惑いながら振り返った。


「よ、テスト出来た?」

「あ、うん……まあ……それなりに」


瀬戸山がいつも笑顔で私の隣に並ぶ。

会いたくなかった。だけど、会えて嬉しい。話しかけてくれるのが、嬉しい。
ただ……あまりにいつも通りで、それは少し困る。

瀬戸山の顔を直視できず、ぼんやりと自分の足元を見つめたまま受け答えをしていた。


「あ、の」


瀬戸山にしては珍しく、ためらいがちな言葉に顔を上げた。


「この前の……気にして、る、よな……」

「——……い、いや、全然!」


キスの話だ、と瞬時に悟って、慌てて首を振った。
……本当は気にしているのだけれど……そんなこと口にできるはずがない。

また、ついキスしました、だとか言われたくない。
ごめん、なんて謝罪も聞きたくない。

……私とキスしたことの意味はなにもないんだ、なんて、わかっているから。わかっているから言わないで。


「……でも」

「もう、いいの。なにもなかった、んだよ。なにも……」


そう、そう思ったほうがマシだ。