返事なんか、書けるはずがなかった。

土日を全部費やしたって、なにも浮かばなかった。考えるたびに涙ばかりが溢れてくる。

必死に忘れるために勉強をしたけれど、頭のなかはあの日のことでいっぱいいっぱいで、化学の教科書は開くことすらもできないまま。


もうやめてしまう、こんなこと、と思っても、すっぱり切り離すことができない。
結局、休みだったというのにほとんど眠ることすらできなかった。


今でも、日記はウソでした、私でした、って言って……瀬戸山に嫌われることが怖いと思っている。
瀬戸山が、ショックを受けるんじゃないかと思うと、申し訳なく思う。


「はー……」


明日からテストだっていうのに……大丈夫かな。
ひとりで廊下を歩きながらため息を落とした。


「あ、えーっと、あ、黒田、さん!?」


通り過ぎる直前に足を止めた男の子が私の名前を口にした。

誰だろうとおもって、視線を足元から上げると、いつも瀬戸山と一緒にいる米田くんが「やっぱり」と言って明るい笑顔を見せる。


「あ、どう、も……」


……米田くんが知っている、とは思えないけれど、やっぱりちょっと気まずい。


「今からクラスにおじゃましようと思ってたんだよー」

「優子に会いに?」

「そうそう」


そういった米田くんはちょっと照れくさそうにしていて、優子のことが好きなんだなあって思った。

……いいなあ、優子は。
好きな人に、こんなふうに想われているなんて。羨ましいなあ。