——って。


唇に、温かい、なんとも言えないなにか、が触れた。
目の前は、なんだかよくわからない。目を見開いてしまっているのに、視界にはなにも映らない。

なんなのこれ、なにこれ。どうなってるの。どういうことなの。


呆然としたまま、与えられるなにかを受け入れ、それがふっとなくなっていくのを感じていた。


徐々に開ける視界には、瀬戸山が私を見ていた。
ほんのりと、頬が赤いような気がする。
さっきまで瀬戸山の顔が近すぎて、よく見えなかったんだ……。

——なんて。


「な、な……なん、で」


ばっと唇を手で覆った。
今の、なに? っていうかわかってるけど。わかっているからこそ意味がわからないんだけど。

みるみるうちに顔が赤く、熱くなって、「な、な」とばっかり口にした。言葉を続けることもできない。


「あ……、いや、あの」


私のパニックぶりを見て、瀬戸山もハッとした顔をした。
その顔に、胸がツキン、と痛む。


「わ、り……つい……」


……“つい”キスしたってこと? なにそれ。なんなのそれ。
唇がカタカタと小刻みに震える。

泣くな。泣いたらダメだ。
ぎゅっと拳をつくって、必死に堪える。


「——……び、っくり、した」


はは、と力なく笑うと、瀬戸山が私から目をそらして「お前も、流されるなよ」と言った。

……なんなの、それ。なんで、そんなことを言うの。
悔しさで涙が浮かぶ。虚しくて、心臓が壊れてしまいそうなほど痛い。