「あ、黒田」


廊下を3人で歩いていると呼び止められる。
もう、声だけで誰だかはすぐにわかるし、前よりも外で話しかけられるのにも落ち着かなくはなくなった。

ただ、今は江里乃がいるから、ちょっと戸惑う。


「どこいくの?」

「ちょっと、購買にジュース買いに……」


瀬戸山の隣には、米田くんがいて、優子が駆け寄った。
ふたりとも嬉しそうで、今日一緒に帰ろう、なんていう話をしている。

瀬戸山は江里乃と優子をチラッと見てから「よかったじゃん」となにもかもお見通しのように私に言った。

……昨日喧嘩した友達が、ふたりのことだって……気づいてる。


「黒田、そういえば資料集返すの忘れてた」

「あー、うん、別にいつでもいいよ」


隣の江里乃をちらっと見て、なんとなく瀬戸山と目が合わせられないまま答える。
もしもここで、ふたりがなんか話をしてしまったら……。なにかをきっかけにあの交換日記が嘘だってことがばれたら……。

そう思うと、心臓がバクバクと音を激しく鳴らす。

早く、どこかに行って欲しい。
お願いだから、なにも言わずに立ち去って。


「どうかしたのか、お前」

「——わっ」


額にぐいっと手を押さえつけられて、顔を上げる。驚きのあまり目をばっちりと開くと、目の前にある、瀬戸山の、顔。

っていうか、近い! それに、手が、顔に! ついでに肩もがっしりと捕まれている。
額から、大きな手の感触と、暖かな温度。