“好きだ”
この3文字に、どれだけの勇気を込めたんだろう。
どんな気持ちで、返事を待っていたのだろう。
誰かに告白なんてしたことない私には想像もつかない。
自分の思いをこんなにも分かりやすい文字にして人に伝えるなんて……。
矢野センパイとだって告白されたから付き合っただけだった。別れるときですら私は自分の意見を言うことができなかった。
友達に突っ込まれるほど気を落とした瀬戸山。
それほど真剣だったのなら……受け入れることはできなくとも、誠実に向き合いたい。
取りあえず、なんとか返事を書いて……近いうちに返事をしなくちゃ。
ポケットにラブレターを直しながらそう決意すると、ふと大事なことに気がついた。
そう、返事を書く。
つまりそれが瀬戸山の手に渡らなくちゃいけないわけで。
「……どうやって返事を渡すの」
クラスが違うどころか、校舎も違う。
理系コースの校舎に足を踏み入れるなんて、移動教室のときくらい。
なにもないときにひとりで行くには目立ちすぎる。
机の中に返事を入れるなんてとてもじゃないけどできそうもない。
手渡しなんてとんでもない。自分から目立ちに行ってどうする。
どうしよう、全く方法が思いつかない。
一週間待てば、移動教室で瀬戸山の机に返事を入れることはできるけれど、それまで待ってくれるだろうか……。
今日みたいに顔を合わせてしまったときに話しかけられるかもしれない。
それに、それまで瀬戸山は落ち込み続けるかも。
……なんで……こんなことに……。
思いがけない大問題に、返事の内容よりも頭を抱えた。