「……友達が、喧嘩して」
「お前じゃねえのかよ」
「私は違うけど……いや、でも、私も、かな……」
少なくとも、江里乃は私にも怒っているだろう。
お昼も生徒会の用事だと言って、教室でお昼は食べなかったらしい。優子もいつもの明るさはなく、江里乃に言われた言葉も気になって、なにも話しかけることができなかった。
「ふたりが喧嘩して……どっちの気持ちもわかるんだけど、それって、やっぱり自分の意見がないからなのかなって……。そう、言われちゃった」
でも、それでも、じゃあどうしたらよかったのか、を考えてもわからないんだ。
「わかるんだよ……自分の気持ちを相手に伝えたほうがいいってこと。好きなことを相手に伝えられなくて、だけど好きで、嫉妬してしまう気持ちも、わかる」
瀬戸山はなにも言わずに私の話に耳を傾ける。
「だから、どっちの味方もできなくて、中途半端になっちゃって……」
「それを、素直に言ってみたら?」
はは、と力なく笑うと、瀬戸山が優しい笑顔で言った。
「そのまま、わからないまま、言えばいいんじゃねえ? なにも言わないから、わからないってなるんだろ。わからないなら分からないって言えばいいんだよ。それを聞いても、自分の意見がねえとは、誰も思わねえよ。少なくとも、俺はお前の話を聞いて、そうは思わなかった」
「……でも、こんな意見、答え出てないのに……」
「ここに数学の問題があるとする」
ノートをぺらっと捲って急に瀬戸山が数学の話をし始めた。
意味がわからないまま、とりあえず「うん」とだけ言うと、そこに大きく『1』と書く。