「なんかあった?」


びくり、と体が跳ねる。
顔を上げると、正面には首を傾げながら私を見つめる瀬戸山の顔があった。


「え?」

「今日ずっと上の空。空返事ばっかしてるし、今日も、そこからページ動いてねえし」


瀬戸山といつものように待ち合わせして、勉強。なのに、彼の言うとおり、なにも頭に入ってきていない。家にくるまで、いや、江里乃と優子が喧嘩してしまってから、それ以外のことまで頭がまわらなかった。

どうしたらいいのかわからない。
それに加えて、江里乃に言われた言葉が忘れられない。


「ごめん……」


瀬戸山に謝って、今日はもう帰ったほうがいいな、と言おうと思うと、瀬戸山が「よし!」と声を出して教科書をぱたんと閉じた。


「聞いてやるから言え」


私の教科書も取り上げて、机の上に置く。そしてまっすぐに私を見つめた。

言え、と言われても……。こんなこと瀬戸山に言っても……。気を使わせるかもしれない。相手は瀬戸山の好きな江里乃だし。

米田くんも関わっているから、深く説明することはできない。


「でも……」

「そんな顔でいられたら、俺が気になるんだよ。帰るときからわかってたけど、もー無理。言え」


思わず吹き出してしまうと、瀬戸山が「お前なー」と怒る。
……だって、すごく偉そうだから……。こんなにはっきりと言われると、笑う以外にないじゃない。