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「希美、行こう」
「あ、うん……」
授業が終わると、江里乃が私のそばにやってきて、ふたりで移動した。
4時間目の移動教室、幸い、と言えばいいのか、優子とは選択授業が違う。ちらっと優子のほうを見てみたけれど、背を向けたまま私たちのほうを見ようとはしなかった。
いつもは“いってらー”と明るく手を降ってくれるのに……。
お昼休みになるとどうなるんだろう。
私は放送の日だから一緒には食べれないんだけど。
……大丈夫かな……。
「あの、江里乃……」
「ほんと、面倒だよねえ」
仲直りしてほしいな、と名前を呼ぶと、遮るかのように江里乃が呆れた声でつぶやいた。
「そんなに気になるならさっさと告白しちゃえばいいのに……私にいわれても仕方ないじゃんね」
確かに、江里乃の言っていることは正しい。
だけど、それがどんなに難しいことか、私はよくわかる。“好きだ”と相手に伝えることは、すごく、怖い。
相手の気持ちがわからないからこそ、自分の気持ちを伝えるのは、すごく、勇気がいる。
江里乃のように、思ったことを真正面から伝えることができればいいかもしれないけれど……みんながみんなできるわけじゃない。
そうできればいいと、思う。だけど、そんな簡単にできるようなことじゃない。
江里乃に嫉妬してしまう気持ちも、不安を抱く気持ちも、意味が無いとしても仕方のないことだ。