「世界史の資料集持ってねえ? 聞いて回ってるんだけど、誰もいねーんだ」
「や、ある、けど……」
視線が痛い。みんなの視線が痛い。
今すぐ逃げ出したい……。瀬戸山は気にならないのが不思議すぎるんですけど。
「なにーふたり仲良くなっちゃって」
「……優子」
私の背中に乗っかかるようにして優子がニヤニヤしながら私と瀬戸山を見る。
ああ、これは瀬戸山がいなくなったあと、いろいろ聞かれることになるんだろうな……。
「付き合ってたりするの?」
「——ま、さか!」
こそっと耳打ちしてきた優子に、思わず大声で答えて、更に注目度が増した。
顔がかっと赤くなったのを見て、優子は瀬戸山と冷やかされたのを恥ずかしがっていると取ったのか、更にニヤニヤとした顔をして「あとで詳しく教えてもらわなくちゃね」とつぶやく。
「どーしたの、お前。熱でもあんの?」
「……なんでもないです……」
机から資料集を取り出して瀬戸山に手渡すと、優子との会話の聞こえなかった瀬戸山が私の顔を見て首を傾げた。
「まあ、サンキュー。ヨネー」
米田くんのことはヨネ、らしい。瀬戸山のことはセト。なんだかかわいいなあと思いながら米田くんの方に私も視線を動かす。
その瞬間、優子の表情が硬くなったのがわかった。
江里乃と、仲良く話をしている米田くん。意外すぎるふたりの並ぶ姿に、声をかけてもいいものか悩む。
ちらりと、瀬戸山を見ると、彼の視線はふたりを真っ直ぐに見つめていて、胸がチクリと痛む。