「ほら、みんなは続ける方法を考えてくれたり、残念がったりするわけだろ。俺もそう思うから我慢してる気分だったけど、そうでもねえなあって。プロになりたいわけじゃないし、国立目指すほど強いわけでもねえし、また楽しめばいいかーって」


いつもの笑顔になって、微笑むを向ける。

——そんな笑顔を向けないで。

私はそんなに、すごいことを言ったわけじゃない。曖昧な言葉しか口にできないだけ。なにを言われても、聞かれても、自分の意志を伝える勇気がないだけなのに。

そう思うのに、笑顔の瀬戸山から目が離せなくなる。

——ダメだ。


「あ、喉! 喉乾かない? なにか飲む? 自販機あるし、家におじゃましたし、勉強教えてもらったし、おごるよ」

「マジで? 飲む飲む」


恥ずかしさを隠すようにベンチから腰を上げて、自販機を指さした。
見つめ合ってどうするの、私!

このままだったらおかしくなってしまう。


「なにがいい? お茶? コーヒーとかのほうがいいかな」


私が問いかけると、瀬戸山は「んー」と考える。
そして。

「どっちでも」


ニカッと笑って、そう言った。





バスにひとりで乗り込んで、一番後ろの窓際に座る。窓の外の瀬戸山は私の姿を見つけて、軽く手を上げた。

その手には、私のあげたコーヒー。
そして私の手には、ミルクティー。

まだ胸がドキドキとうるさい。
頬が熱い。顔が、熱い。

どうしよう。ダメなのに、意味ないのに、無駄なのに。

バスが走りだしてしばらくすると、スマホにメールが届いた。
『また明日』という短い瀬戸山からのメールに、嬉しくて、苦しくなる。




——私、瀬戸山が好きだ。