「なにその顔。そりゃそうだろ、1日で欠点免れるほど俺頭よくねえし、お前も数学あのレベルじゃ無理だろ」
確かに、ほとんどの問題を瀬戸山に聞いたけど……。
「家だと気つかうからわりーなーとは思うけど、夜に美久とばーちゃんだけにしてらんねーしなあ。ばーちゃんはあんな体だし、なんかあったとき、美久だけじゃ心配だしな。土日は親父がいるからいいんだけど、平日はなー」
確かに……今色々事件もあるし、小学生の女の子ひとりだと心配だ。
だから瀬戸山はクラブをやめて、できるだけ平日は家にいるんだろう。確かにクラブに入っていたら、八時は過ぎちゃうだろうなあ。
「俺我慢大嫌いで、思ったこと全部口にするし、やりたいようにやりてえから、クラブ辞めるときもすっげえ嫌だった」
瀬戸山が話し始めて、それを黙って聞いた。
「親父と喧嘩しまくったんだけど、ばーちゃんが俺をかばうんだよ。あの体で。美久は気を使い始めるしで、半分自棄になって辞めて、諦めはついたけど、なんで俺が我慢しなきゃいけねえんだって、やっぱり時々思ってた」
そして、私の方を向く。
街頭が逆光になっていて、ああ、きれいな顔だなあ、って思った。
「そんなとき、お前が“今は無理かもしれないけど、またやれるよ”って。すっげえ楽になった」
ふっと息を吐くように笑う。
そんなふうに私の言葉を受け止めてくれたのかと思うと、胸が熱くなる。