「恥ずかしくて、うまく話せなくて……メールだと話せるのに」
今どきの小学生は携帯も持ってるのか。
ほーとかへーとかばかみたいな相槌を打ちながら美久ちゃんの相談を聞いた。
付き合ったのはいいけど、意識してうまく話せなくて、付き合ってからふたりきりにもなっていないらしく、悩んでいるらしい。
「私も、同じだよ」
「……ほんとに? お兄ちゃんとのときも? そのうちお兄ちゃんと希美さんみたいに、仲良くなれる?」
「……あー、うん、えーっと。あははははは」
乾いた笑いになってしまったけれど、美久ちゃんは嬉しそうに「ありがとう」と言ってから腰を上げた。
「じゃー邪魔してごめんなさーい。お勉強頑張ってねー」
最後まで結局誤解を解くことができなかったけど、いいのかな。
話をしたのはほんの数分なのに、長いこと休んでいた気分で、ふーっといきを吐き出す。
「あ、ごめんね」
「いーよ。美久も喜んでたし」
あ、なんかお兄ちゃんの顔だ。
なんだかんだ言いつつ優しいんだろうなあ、瀬戸山は。
再び勉強するために教科書を開くと、瀬戸山が「なあ」と私を呼んだ。
「なに?」
「……英語教わる代わりに、数学教えてやろうか?」
「え? ほんとに!?」
食いつく私に、瀬戸山が少し驚いてから「いいよ」と笑う。
「図書室で数学見てたから苦手なのかと思ったら本当に苦手なんだな」
「数字ってよくわかんない」
「簡単なのになー。んじゃお前数学すれば? わかんないところあったら聞けよ。俺もわかんなかったら聞くし」
全部わかんない、なんて言ったら驚くんだろうなあ。
でも、瀬戸山のそばで一緒に問題を解くよりも、効率がいい。「ありがとう」と言って数学の教科書と問題集を開いた。