「希美、ニコニコしてるから、いいことあるのかと思ったのにー」
……ニコニコ?
首を傾げて江里乃を見ると、苦笑されてしまった。
これ以上聞いても無駄だと思ったのか、江里乃が「またちゃんと報告してよー希美秘密主義なんだから」と言って笑顔で私に手を振ってから教室をあとにする。
ニコニコ……?
自分の両手を頬に添えて、どんな顔をしているのかと軽くさすってみたけれど、わかるはずもない。
ま、さか。
楽しみにしてるみたいじゃない。そんなはずない。だってただ、勉強をするだけ。それだけ。
それに、瀬戸山は、私を好きじゃないんだから。だから、なんでもない関係だ。
——私は?
ふとそんな疑問が浮かんで、思わず自分の頬をベチベチと叩いた。
なにを考えているの。そんなはずない。
だって、瀬戸山が江里乃を好きなことは始めっからわかっていること。ふたりがうまくいけばいいって思ってる。
思っている、のに。
奥歯をぎゅっと噛んで、胸の苦しさをごまかした。
——好きになったところで、無駄なだけ。
そんなこと、わかってるんだから。だから、好きになるはずがない。
たとえ、思ったよりも話しやすかったとしても。なんでも口にする素直さが、妬ましさから憧れに変わっていたとしても、笑顔が、優しいとしても。