「あれ? 希美帰らないの?」

「あ、うん、ちょっと用事が」


ホームルームが終わって鞄を手にする江里乃が私の席の前で声をかけてくる。いつもなら、私も同じタイミングで席を立つのに今日はまだ帰る準備もしていないから、不思議に思ったんだろう。

返事を濁すと、江里乃が「なに?」とすかさず聞いてきた。

……江里乃のことだからつっこまれるかなーと思ったけど、やっぱりかー。


「図書室で、勉強、しよっかなって」

「ひとりで?」

「……いや、あの、友達と」


目が泳ぐ自分がわかる。
つっこんで聞いてくれと言わんばかりに挙動不審だ。


「だ、れ、と?」


目を輝かせる江里乃から視線を逸らして「友達」ともう一度告げた。もちろんそんな返事で江里乃が納得するわけもなく「誰と?」と再び問う。

気になると聞かずにはいられないのが江里乃だ。

そういえば、矢野センパイとつきあうことになったときも、誰にも言わなかったのに江里乃に問いつめられて言ったんだっけ。


でもここで、瀬戸山の名前を出してもいいものかどうか。


「もったいぶらなくていいじゃんー。もしかして、彼氏とか?」


にやりと笑った江里乃に、慌てて「友達だってー!」と否定を告げた。


「じゃあ好きな人?」

「……友達」


どうしてそうなるのだろう。
がっくりと肩を落としつつ答えると「えー?」と不満そうな顔をした。

がっかりされても……本当になにもないんだもの。