「お前、案外すごいのなー」
「……なにが?」
コインを一枚一枚入れながらつぶやく瀬戸山。
すごいのは、500円しかコインに変えなかったはずなのに、手元のカップの半分以上にコインを増やしている瀬戸山だと思う。
コインゲームってコインを増やすことができるんだ。減る一方だと思っていた。
「さっきの。俺思ったこと我慢せずに口にするから黒田のふわふわしたところイライラするんだけど、すげーことなんだなあって思って」
さっきのって? なんだろう。ハンバーガーのことかな。
「ハンバーガーかカフェの選択肢しかなかったのに、中間を選んでみんなが好きなもの食べれるようにするって、すげーな、お前。俺すぐ白黒つけたがるんだよなあ。よくばーちゃんに我儘だって言われるしなー」
「……そんな、ことない、よ」
にかっと眩しいほどの笑顔で褒められると、後ろめたい気持ちになって目をそらした。
たまたまだったかもしれない。ただ、合わせているだけ。どちら側にもつかず、ふらふらしているだけ。
「瀬戸山のほうが、羨ましいよ」
思ったことをちゃんと口にできるほうが、ずっとすごいことだよ。
こんなふうに、私に“すごい”なんて言える瀬戸山のほうが、ずっとずっと、すごい。
——『どっちでもいい、とか、わからないよ』
人に自分の意見を言わなくちゃ、伝わらないんだもの。
「自分の意見を言えなくて、振られるんだから、私なんて」
自嘲気味に笑って告げた。