「よー、黒田」
バクン! と大きな音が心臓から鳴り響いて、胸が傷んだ。
「お、はよ」
「もう昼だけどな」
振り向いて返事をすれば、クスクスと笑う瀬戸山の顔があった。
ジーパンに、ネルシャツ、そしてベストのダウンジャケット。足元はスニーカー。ヘッドフォンで音楽を聞きながら来たんだろう。首元にかけたまま。
どれも特別おしゃれなものではないのに、瀬戸山が着ているからか、特別なものに見えてしまう。
「雰囲気違うなー、制服と。かわいーじゃん」
こういうことを、さらっと言う人なんだろう。「ありがと、う」としどろもどろに答えながら視線を外した。
……頬に熱がこもってしまう。そんなのを見られるのは、困る。
ほら、言われ慣れてないから、こんなこと。江里乃だったらにっこり笑って“ありがとう”とはっきりと応えることができると思うけれど。
でも、ちょっとほっとした。
江里乃と出かけたかったんじゃないかって思っていたから、私が来たことにがっかりしていたらどうしようかと。とりあえず、そんな感じではないみたいだし。
「今日映画だろ? 黒田どんな映画好き?」
「え? んー……ラブストーリーとホラー以外かなあ」
「へー。女の子ってみんなラブストーリー好きそうなのに、そうじゃないんだ。俺も無理だけど。絶対寝る」
やっぱり寝るんだ。
「瀬戸山は、アクション映画とか好きそうだよね」
「んーまあなー飽きないし」
そんな理由なんだ。
デスメタルが好きだって言ってたし、バラード聞いているだけでも寝そう。きっと、今聞いていた音楽もデスメタルだろう。