「ねーねー、どっち?」

「あーもう、まだ、よく、わかんないから!」


ぐるぐると頭を回しているあいだも、ふたりは話を続けていた。

確かにどっちなんだろう。もしかして瀬戸山だったりするのかな。だとしたら……どうしたらいいだろう。

瀬戸山にはうまくいってほしい。だけど、優子が瀬戸山を好きなら応援したい。だけど……江里乃と瀬戸山が付き合ったら……。


「よ、米田、かな……?」


顔を真っ赤にして小さな声で名前を告げた優子に、思わずほっと胸をなでおろした。


「もー! まだわかんないから、言わないでよ! 希美も、変な気を使ったら怒るからね!」


あまりにもかわいい優子に「はいはい」と笑うと、優子の顔がさっきよりも真っ赤に染まっていく。

……いいな。かわいいな。
なんだか羨ましくなって、だけど私まで幸せな気持ちになる。


しばらく優子の片思いをいじった江里乃が生徒会からの呼び出しで席を外した。優子が「あーもう」と諦めたようにつぶやいて机に伏せる。


「江里乃ったら、いじりすぎじゃない? もー」

「まあまあ、私もちょっと驚いたし。優子からそういう話初めてだしテンションも上がるよ」

「……んーでも、あんまり自覚したくないんだけどなあ」


優子が本音をぽろりとこぼした。いつもの明るい声じゃなくて、少し、低い声で。


「なんで?」

「米田、江里乃のこと好きなのかなあって。合コンも、実は江里乃を誘うように言われてたし、今度の映画も……」


それは、瀬戸山のためなんじゃないかな。
さすがに私からそれを伝えることはできないのだけれど。

それに、米田くんが瀬戸山の気持ちを知らないかもしれない可能性だってある。もしかしたら優子の言うように、米田くんが江里乃のことを好きじゃないとは言い切れない。

そんなことないよ、って言ったほうがいいのかもしれないけど……無責任なような気がして。


「優子のこと、応援するよ」


そう告げた。
優子は困ったように笑っただけだった。