「江里乃、今は誰かとつきあう気ないの?」
教室に戻ってすぐにそう尋ねると、さすがの江里乃も驚いた顔をして「どうしたの」と逆に問いかけてきた。
「えーっと、なんとなく?」
「ふはっ、なにそれ。付き合えるなら私も彼氏ほしいよー」
そうなんだ。
ふと、前に言っていた江里乃の台詞を思い出した。
“万が一、告白でもされたら付き合うと思うけど”
それは、つまり、私が瀬戸山に全てを告げて、瀬戸山が改めて江里乃に告白をすれば……ふたりは付き合うことになるってこと。
なんだ、すごく簡単じゃない。
そう思うのに、この重い気持ちはなんだろう。
ポケットの中のノートに思わず服の上から触れて、言葉に出来ないこの感情に涙が出そうになる。
——私……。
「希美?」
「え? あ、うん、そうだよね」
心配そうな江里乃の声に慌てて顔を上げて笑ってみせた。
なにを、考えているの、私は。
私が一番求めていた結末じゃない。そのために、江里乃のフリしてとりあえず交換日記を続けているんだから。うまくいく確信が持てたんだから、いいじゃないの。
これ以上ウソをつかなくてもいい。
「あ、希美ー、江里乃ー」
いつも通りにしなくちゃ、と思ったと同時に、優子が私たちの名前を呼んだ。振り返ると嬉しそうな顔で優子が教室をスキップして近づいてくる。
「どうしたの? なんかいいことでもあった?」
「いや、まあ、それなりに?」
相当いいことがあったんだろう。頬が緩んで目尻も下がりっぱなしだ。