模擬店の準備が行われている余所では、ステージに出る生徒達が練習をしていた。

漫才をする奴もいれば、ファッションショーをする奴もいるし、部活全体でステージに立つ奴もいる。

クラスメイト数人は演劇部に所属していて、ぜひ見に気て欲しいと声を掛けられた。

せっかく練習をしているのだから、たくさんの人に観てもらって楽しんで欲しいんだろう。劇の内容は学生版昼ドラらしいけど……。


柳と宮本も練習に励んでいた。

四人制のバンドらしい。

ギターとドラム、キーボードで形成されたグループだとか。ふたりはエレキギターを弾くようで、それを持参してはいつも楽譜を見ながら弦を押さえている。


柳に関しては、ボーカル兼ギターらしい。柳の歌唱力はカラオケで知っているけど、歌いながらギターを弾く、なんて難しいだろうに。


ふたりは模擬店の雑用も忘れるほど、熱心に練習をしていた。


始めたばっかりだからか、楽しくて仕方がないんだろう。

音を間違えた。コードが分からん。なんて、言い合いながら、ギターを弾いていた。


おかげでぼくに雑用が多く回ってくる。

がんばって練習をしているから、強く文句は言えないけどさ。


「あれ? なんか上手く弾けないんだけど。音程が変だ」


いつものように準備をしていると、教室の隅っこでギターを触っていた柳が困ったように眉を下げた。


「どれ?」


宮本がギターの調子を見てやるんだけど、原因が分からないようだ。

分かることと言えば、弦がサビていることくらいらしく、「手入れしているのか?」と呆れを口にしていた。


「大切にしているっつーの!」


ムキになっている柳が弦を変えるべきなのかな、と肩を落とす。


これじゃ練習に身が入らない。


そんな落胆が耳に届き、ぼくは輪飾りを作っていた手を止める。


弦がサビているなら交換するべきだ。音程はもちろん、弦を指で弾くフィンガリングにも影響が出てくる。


ああくそ。

ぼくは荒々しく席を立つと、柳と宮本に歩み寄った。


「ちょっと見せろよ」

「え。中井に見せたところで、壊されるだけじゃ」


いいから見せろと催促し、半ば無理やりギターを取り上げる。

向こうで柳がわぁわぁ騒いでいるけど、全部シカトだ。


確かに弦はサビていた。

けど、手入れ不足じゃない。


このサビ方は寿命だな。ギターの弦は鉄。どこかで必ずサビは出てくる。


「安心しろ柳。ただの寿命だよ。弾く頻度や手汗で弦はサビる。練習頻度が多いと、それだけサビやすくなるんだ。
特に夏場はサビやすいからな。一ヶ月に二回以上は交換するもんさ。練習後に布で拭いているんだろう?」


「お、おう……」

「なら、単に寿命だ。手入れ不足でもなんでもないよ」