無意識に目で仲井さんを探す。

彼女はすぐに見つかった。


自分の席で文庫を広げながら、友達となにやら楽しそうにおしゃべりしている。

仲井さんは本も好きだからな。

何か面白い本でも見つかったんだろう。


ぼくも雑誌は読むけど、活字ばかりの本は読まないから。これを機に読んでみるのも手か?


と、仲井さんの席にまたひとり、雑談に加担する生徒を目にする。


クラスの学級委員をしている久保田だ。

本読みくんで有名な彼は、仲井さんに声を掛けて文庫を手に取っていた。


そして、一緒に盛り上がっているものだから、ぼくは不機嫌になってしまった。


「おいおい中井。男の嫉妬は醜いぜ?」


宮本が苦笑いを浮かべた。

どこかの誰かさんのようにヒヨコになって答える。嫉妬なんかしてねーし。

「お前は分かりやすいんだよ。そりゃ仲井さんは、久保田みてぇなタイプが好きそうだし、話も合いそうだけど」

柳の言葉がグサッと心に刺さる。そう、それもぼくの憂鬱の一つだ。

仲井さんは本来、教室でばか騒ぎするような男子は好まない。


物静かで知的な男子を好む。

彼女から直接話を聞いたわけじゃないけど、言われなくたって分かる。

ぼくだって仲井さんのようなおとなしい子がタイプだったわけじゃないのだから。


それが、どこでどう間違えたのか、仲井さんに恋をしてしまった。

理由を挙げればキリがない。


例えば、一生懸命に絵を描く姿を知った、とか。

気持ちを夢に向かって本気で走っている姿を目にしたから、とか。


それこそお父さんに、これからも反対すると宣言されても諦めない心を持っている彼女を感じているから、とか。


知れば知るほど本気でのめり込んでいく自分がいる。

それが悩みの種であり、恐怖でもある。


ぼくは、本気で好きになるほど“傷付いた時の痛みの強さ”を知っているから。