メッセージに添えられた下手くそな花の絵は、たぶんヒマワリなんだろう。
仲井さんの夢のはじまりを、お母さんは知っていたんだ。そして、夢に向かって歩く未来も。
仲井さんはまばたきすら忘れて、そのメッセージを何度も目でなぞっている。
頬に涙が流れ、それが落ちていくのも忘れて、いつまでもお母さんの応援を読んでいる。
「わたしはきっと、これからも娘を想って反対ばかり口にするだろう。だから志穂、挫折しそうになったら、母さんの言葉を励みにしなさい。母さんはいつでもお前の味方だ」
仲井さんはノートを抱きしめると、何度も首を振って嗚咽を漏らす。
ぼくが背中をさすれば、それが引き金になったように声を上げて泣き始めた。
あの時のような悲しみに暮れた涙じゃない。嬉しさに溢れた涙を流し、仲井さんはお母さんの名前を何度も口にした。
ぼくもつられて涙が出そうになったのは、きっと仲井さんの気持ちが宿っているからだろう。
彼女の気持ちは、抱く夢は、今とてもあたたかい。
「彼氏くん」
お父さんに呼ばれたぼくは、さする手をそのままに顔を上げる。
「きみの名前は」
「中井です。中井英輔(えいすけ)と言います」
「ナカイ。同じ苗字なのか」
「にんべんのないナカイですけどね。クラスじゃ〝ナカナカ〟コンビと言われちゃって」
「はは、しかし不思議な縁だな。英輔くん、どうか志穂をこれからもよろしく頼むよ。娘のために怒ってくれて、ありがとう」
きみになら志穂を任せられる、お父さんはぼくに微笑んだ。その笑みは、やっぱり仲井さんに似た、優しい笑みだった。