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仲井さんは何事もなかったのように、翌日からデッサンしたヒマワリに色を塗り始めた。
しっかりと乾いたスケッチブックのページを何度も確認して、そこに水彩絵の具を塗っていく。
一度濡れてしまったページは、全体的にでこぼと浮き上がっていたけれど、彼女は気にせずに筆を使って色を塗っていた。
仲井さんの性格上、もう一度イチからヒマワリを描きなおすと思っていたのだけど、彼女曰く「これがいい」とのこと。
「中井くんが守ってくれた絵を無駄にできないから」
頬をほんのり赤く染めてくる彼女の言葉の意味を、どう捉えていいのか分からない。
これは友達として喜ぶべきなのか、異性として喜ぶべきなのか。ぼくとしては、後者だったら嬉しいかも。
ちなみに、ぼくもヒマワリに色を塗った。一応約束をしていたしな。
出来栄えは残念トホホなんだけど、仲井さんは上手だと褒めてくれた。
お母さんの仏壇に飾るものなのに、ぼくが塗っても良かったのかな、と思う反面、彼女が喜んでくれるなら、それでいっかと思う現金なぼくもいた。
時間を掛けて色を塗ったヒマワリは、鮮やかな色を放っていながらも、どこか歪んでいて、花がくしゃっとしている。綺麗、という印象は薄い。
でも、どこか強さを放つヒマワリに見えた。
どんなことがあろうと屈しない、強いつよいヒマワリ。なんだか仲井さんっぽい。お母さんも喜びそうだ。
残る作業は詩を書き込むのみ。これは彼女がやるべきだろう。アレジメントがあれば、それも一緒に供えられたんだけど……。
「そうだ、仲井さん。花屋に行こうよ。今ならまだ、開いているだろうから。花一本でも立派なお供えになるじゃん? アレジメントは高いだろうけど、一本なら安いよ」
なによりメインは花じゃなくて、仲井さんの絵だ。お供えする花は控えめでもいいと思う。
我ながら名案だと自画自賛し、ぼくは仲井さんの返事を待たず、半ば強引に彼女と花屋へ向かった。
そこでヒマワリが売られていたら、それを一本。なかったら、ヒマワリに似た黄色い花を買えばいい。
そう思ってスーパーの中にある花屋に入ったぼくは、仲井さんと驚いてしまう。
だって、そこにまさかの。