「ねえ、仲井さん。お父さんにああ言われたけど、これからも夢は追うの?」


今はぼくが持っている仲井さんの気持ちは、いずれ彼女に戻っていくことだろう。


その時、仲井さんは夢に伴う痛みと向かい合わないといけない。


それに耐えられるだけの覚悟はあるのかな。

他人のぼくですら苦痛だと思ったのだから、本人にとっては吐き出したい激痛になるだろうし。


すると仲井さんは「やめる」と、答えた。


「もうお父さんを理由にする自分をやめるよ。誰に何を言われても、好きなものは好きだって言える強い自分になろうと思う」


それは諦める意味のやめるではなく、お父さんを理由にすることをやめる、だった。


仲井さんは覚悟したんだ。本当の意味で自分の夢と向き合おうと、腹を括ったんだ。


本音を吐き出しつくした、今の仲井さんだからこそ言えるんだろう。


「そうじゃないと、中井くんにだって悪いよ」


「え、ぼく?」



「きみはわたしのためにお父さんに怒ってくれたり、走って探しに来てくれたり、本音を吐かせてくれた。これで、挫けたらわたしはカッコ悪いよ。なにより、あの時の中井くん、すごくカッコ良かった」



小雨が遠ざかり、雲の切れ目から夜空がぽっかりと顔を出したけれど、仲井さんに気を取られていたぼくはこれっぽっちも気付かなかった。