あんなに勢いよく降っていた雨が小降りになる。


仲井さんが涙を流した分、雨の量が減ったのかもしれない。

おかしなことを思っているぼくがいるけど、ちょっとした不思議を目にしているんだ。


そんな現実があってもいいと思う。


バス停を後にしたぼくは、仲井さんの手を引いて来た道をなぞるように戻っていく。

今度こそ彼女を家に送るために、彼女と歩調を合わせる。

ぼくが仲井さんの手を握っているのは、また飛び出されないようにするため。

本音は単純に手が繋ぎたかったから。

もし拒絶されそうになったら例の〝彼氏の特権〟を使おうと思ったんだけど、仲井さんは素直に手を握り返してくれた。


「中井くん。指先かたいね」


うさぎのように真っ赤な目と、腫れた瞼、ちょっと詰まった鼻声。

どれにも触れることなく、ぼくは他愛もない話題に便乗する。


「男の指ってこんなもんだよ。女の子とは全然違うんじゃない?」

「そうなのかな。でも、中井くん。指先にマメっぽいものができているけど、なにかやっていたの?」


「単に皮膚が厚いんだと思う。なにもやっていないよ。それはペンだこじゃないかな」


男の指先はそういうものだと繰り返し、「思い出に残る初デートだったね」と、仲井さんにおどけた。


ふたりとも、ずぶ濡れのびしょ濡れだ。

これは忘れられないデートになるだろう。


そう言ってやると、彼女は力なく笑う。

ぼくは思い切り笑い返してやる。今日のことは気にしていないと気持ちを込めて。仲井さんはすぐに気にするから。