仲井さんは心の底から叫ぶ。




「わたしの夢は現実逃避なんかじゃない。何も知らないくせに否定しないでよ。わたしの好きなものを、夢を、わたしを否定しないでよ!」




雨音さえ遠のくほどの声音で仲井さんが叫んだ瞬間、ぼくは彼女の頭を引き寄せる。

息を詰める彼女に、「知っている」と笑い、その小さな頭を抱きしめた。


「全部知っているよ。仲井さんが悔しい思いをしていることも、否定されて泣きたい気持ちも、話を聞いてくれない怒りも」


仲井さんの気持ちが、痛みが、叫びがぼくに教えてくれている。ぼくは全部知っているから。


「ぼくは好きだよ、仲井さん。きみの描く絵が、一生懸命に絵を描くきみが」


見上げてくる彼女に、「教えてよ」と、ぼくは微笑む。

絵を描く楽しさを、イラストにまつわる話を、イラストレーターのことを。


たとえ、ぼくときみの気持ちが元通りになってもさ。


顔を覗き込むと、彼女の瞳が大きく揺れた。



「だからさ。お願いだから、これからもそんなきみでいてよ」



そして間を置かず「うぁ」と、意味のなさない声を零す。

優しく頭をぽんぽんと撫でたことで引き金になった。彼女はぼくにすがり、胸に顔を押し付けると、人目も構わず大声を上げて涙を流し始める。


本当に悔しかったんだろう。

話すら聞いてもらえずに自分の夢を否定されたことも、夢を追う自分を否定されたことも、なにもかも。

傷付かないわけないじゃないか、仲井さんは夢を追う自分が、絵を描く自分が好きだったんだから。


ただ夢を持っただけで、どうして泣かなきゃいけないんだろうな。


「痛いや」


仲井さんの気持ちが、泣き声が、涙が、とても痛い。