だけど絵を描くことは大好きなままだった。
仲井さんは、お母さんの思い出と笑顔を胸にイラストレーターを目指そうと決意する。
それをお父さんに伝えようと、将来の夢を語ると、話を聞く前から『もっとマシな夢を持ちなさい』
「お姉ちゃんは子どもが大好きで、お父さんに“子どもと関わる仕事”を目指すって言っていたの。それを聞いたお父さんは、すごく喜んでいて……応援していて。幼稚園の先生になった時は誰よりも笑顔で」
ずきずき、じゅくじゅく、胸が痛む。
「だけど、わたしの夢は呆れられて……クダラナイ夢だって言われて。聞いてももらえなくて」
心が痛みのあまりに叫びそうだ。
仲井さんは絵が本当に好きなんだ。
好きで、好きで、だからこそ傷付いた。
「こんな思いをするなら、もっと、べつの夢を持てばよかったな。お姉ちゃんみたいに、現実的で人に役立ちそうな夢を持てば……お父さんだって」
「違うだろ」
ぼくは仲井さんの言葉を遮る。
相手の両肩を掴み、「そうじゃないだろ」と揺さぶり、「うそつくなよ」と顔をしかめる。
呆ける彼女を真っ直ぐ見つめ、何度も違う、そうじゃないだろうと繰り返す。
「仲井さんは、そんな“クダラナイ”ことなんて思っていない。ひとつも思っていない。良い子ちゃんぶるなよ」
「なか、い、くん」
「本当は腹が立ったんじゃないのか? ムカついたんじゃないのか? 怒鳴りたくなったんじゃないか? お父さんにあんなことを言われて。
なにが人に役立ちそうな夢だ。自分の努力も知らないくせに、想いも聞かないくせに、勝手なことを言うなって」
「で、も、わたし」
「なんだよ。ぼくに言ったじゃないか。がんばるって。夢を叶えるって。仲井さんは自分の夢をクダラナイと思っているのかよ。イラストレーターはクダラナイのか!?」
「そんなこと思っていないよ! すごく素敵な職業だし、憧れの仕事だよ!」
ふざけたことを言うなと反論してくる仲井さんに、ぼくも負けじと返す。
「じゃあ言えよ。ここで叫べよ。腹の底で思っていることを吐き出せよ! 今の仲井さんは正直に言ったって何も怖くねぇし、痛い思いもしないんだよ! ぼくにぶつけろよ!」