「あ、いた。仲井さんだ」


すっかり重くなってしまった制服を引きずるよう走っていたぼくは、やっとの思いで目的地にたどり着いた。

そこには探し求めていた仲井さんがいた。

二つに結んでいる髪を力なく垂れさせ、設置されているベンチにぼんやりと座っている。


傍から見ても、バスを待つ乗客には見えない。


ベンチに歩み、仲井さんの前に立つ。

のろのろと顔を上げてくる彼女がぼくの姿に気付き、その瞳をかすかに揺らした。

どうしてここにいるの? と、言いたげな目だ。心外だよ。こっちは必死こいて探していたのに。


「傘は置いてきたから、これで我慢してよ」


肩を忙しなく動かしながら、通学鞄からタオルを取り出し、それを仲井さんの頭にかぶせる。

ちょっと湿っているけど、まだ水気は取ってくれるだろう。

濡れた制服もそのままに仲井さんの隣に座る。


まだ息は整わない。

自分でも驚くほど、がむしゃらに走っていたようだ。

おかげでぶつける予定だった文句を言う気にもなれない。ちぇ、これで仲井さんを弄ろうと思っていたのに。


目の前で車が通り過ぎていく。

その度にライトがぼく達を照らしては、眩しい思いをさせられる。

バスが来る気配はない。最終便は通過したんだろう。

目の前の道路は車やトラック、時々カッパを着た自転車が通り過ぎていくだけ。


「明日はぼく達、風邪を引いて休むかもな。ふたりともずぶ濡れだ」


そしたらきっと、クラスメイトから“ナカナカ”コンビが休んだ。これは意味深だ。ふたりでサボって何かしていたに違いない、とはやし立てられるんだろう。


特に柳と宮本が弄ってきそう。


そうなったら面倒だな。

また仲井さんが不機嫌になる。ぼくは彼女の機嫌を直してやらないといけない。


だけど、ぼくとしてはその方が良い。

表情のない仲井さんを見るよりかは、ずっと。


「中井くん。探しに来てくれたんだね」


消えそうな声は確かにぼくの耳に届いた。

間を置き、「家まで送るって言ったのはぼくだから」と、返事する。


それに対して「優しいね」と、力のない笑みをもらったけど、ぼくは優しくなんてないさ。


ただ、自分のしたいことをしようと思っただけ。

仲井さんを放っておく最低な人間になりたくなかっただけだ。