今頃、仲井さんはこの雨の下でどうしているだろう。早く探しに行かないと。
水気を取ったスケッチブックを見つめていると、通学鞄の中から光が零れてきた。
「え」驚きの声を上げ、その光の正体を確認する。
鞄の中を青白い光でいっぱいにしていたのは、いつも持ち歩いている『初心者向けのイラスト講座』
仲井さんにいつでも返せるように鞄に入れていたのだけれど、それが光っている、なんて。
驚きはそれだけじゃない。
この本に反応するかのように、スケッチブックが勝手にページをめくられる。
デッサンが描かれたページの裏側に、浮かび上がるひとりの人物。
真っ白なページを走る鉛筆画の少女は見覚えがあった。
「これは仲井さん?」
鉛筆画の少女は動いていた。
泣きそうに顔を歪め、ひたすらに走る。
やがて雨宿りできる場所に辿り着いた少女は、そこで崩れた。
描かれているのは屋根のあるバス停。
周囲の景色とバス停に見覚えがある。
瞬きをすると、もうそこに鉛筆画の少女はいなかった。
持っている本も何事もなかったかのように手に収まっている。
何が何だか分からないけど、ひとつだけ分かる。
「仲井さんは、三つ角公園前のバス停にいるのか」
確信はない。
けど、これ以上の情報もない。
ぼくは仲井さんの本とスケッチブックを通学鞄に仕舞い、しっかりとチャックを閉めて雨空の下に飛び出す。
そこに仲井さんがいるなら、何が何でも行かないと。
放っておくことなんて無理。
このまま帰るなんてふざけている。
あんな顔をした仲井さんをひとりにするなんてできない。
どうか、そこにいて。ぼくが行くまで、そこに。