それとも、仲井さんはいつもこんな痛みを抱えていたのかな。


彼女はおとなしい子で基本的に良い子だから、ヒトにあれこれ言われることを嫌う。


並行して反論はしない。

だから、コンビ名をつけられたことに嫌気が差したり、柳や宮本から茶々を入れられたりすると不機嫌になった。

でも何も言わなかったのは、仲井さんの性格からだ。ぼくには強く出られるのは、衝突事故の一件があるからだろう。



仲井さんは家で、お父さんにとやかく言われていたんだろう。

なにも悪いことはしていない。


仲井さんは本当に絵が好きで、それで仕事ができたら良いと夢見ていた。

こんな将来になりたい、と未来に目を輝かせていた。


それだけだったのに。


「変なの。夢を見ただけで説教だなんて」


小学校の頃、文集で将来の夢を書かされたことがあった。

そこに思い思いの将来像を書いて作文にした。

『学校の先生』と書いた奴もいれば、『プロサッカー選手』と書いた奴もいた。『ナース』もいたし、『お笑い芸人』もいた。

それに対して先生は何も言わずに夢を応援してくれた。誰も現実を見ろ、なんて言わなかった。


なのに中学校に入った頃から、夢にランクが付けられるようになった。

同じように皆、夢を見ているだけなのに、『学校の先生』はがんばれで、『お笑い芸人』はもう少し現実を見た方が良いと苦笑いを買うようになった。


一握りしか成功しない夢は、オトナ達から現実を諭されるようになった。同じように夢を見ているだけなのに、ランクを付けられるなんて。


だったら最初から夢なんて見させるなよ。

人それぞれにあった夢を見れる範囲を決めておけよ。

子どもに夢を持てと言うのはオトナじゃんか。

夢を持たなかったら、ツマラナイ人間になるとか言うくせに。


「仲井さんは現実を見ていないわけじゃないのに。今の自分と向き合いながら、どうやって夢を叶えようか考えていたのに」