「どうして遊んでいるとか、逃げているとか、ふざけたことが言えるんだよ。仲井さんの絵を、描いている姿を、あんたは一度でも真剣に見たことがあんのかよ!」


見たことがないから、ふざけたことが言えるんだ。

あんなにいきいきとして、あんなに楽しそうで、あんなに真っ直ぐな仲井さんを見たことがないから、簡単に彼女の夢を見下せるんだ。


「なんで仲井さんがイラストレーターになろうとしているのか、その話を聞いたことあるのかよ。お母さんとの思い出を聞いたことは? 絵が好きになった理由は? 何も知らないくせに、仲井さんの夢を見下すんじゃねえよ!」


なにが、人の役に立つ夢を持て、だ。

仲井さんの夢だって人の役に立っているじゃないか。

絵でヒトを幸せにしたい、その夢は人に役立とうとしているんじゃないのか?


べつに仲井さんだって現実を見ていないわけじゃない。

イラスト関連の進路はお金が掛かる。

だから、どうやって夢を叶えようか。バイトをしたらいいのかな。一度社会人になってからお金を貯めるべきかな。

その時、絵を練習する時間はあるかな。


自分なりに未来を考えていた。


それをお父さんと、本当は話したかったんだ。

自分の夢を認める認めないの前に、自分の想いを聞いて欲しかったんだ。

一緒に未来について悩んで欲しかったんだ。

応援して欲しかったんだ。


精一杯のことをしてみたかったんだ。


彼女の心がそう悲痛に叫んでいる、だからぼくが代わりにここで叫ぼう。


「誰でもない、あんたに応援して欲しかったんだ! 叶わない夢かもしれないし、成功するか分からない職業だけど、父親のあんたに一言“がんばれ”って言って欲しかったんだよ! 向き合って欲しかったんだよ!」