余計なやり取りのおかげで気まずい空気が一層深まる中、やっとの思いで仲井さんの住む一軒家に到着することができた。
二階建て造りの家はレンガ壁で出来ているせいか日本の家、というより西洋の家を思わせる。
シャレていることに、表札はローマ字で『NAKAI』だ。
ぼくの友達が見たら、ここぞとばかりに“ナカナカ”コンビが結婚しているぞ、と弄るに違いない。
タイミングが良いのか悪いのか、家の前に仲井さんの家族であろう人間が二人いた。
ひとりは仲井さんのお父さんだろう。スーツ姿のおじさんが仲井さんの家に入ろうとしているんだ。
一目で分かる。
もうひとりは、たぶん仲井さんのお姉さん。
眼鏡を掛けた優しい顔つきは、ぼく達よりは年上のお姉さんって感じがする。
どうやら向こう二人もたった今家に到着したらしく、仲井さんの帰宅に驚いていた。
「志穂。もう九時半よ。連絡もなしに、今までどこに行っていたの? 傘を持っていっていなかったお父さんを迎えに行ってもらおうと思ったのに」
お姉さんの名前は結花(ゆか)さんと言うらしく、仲井さんと顔を合わせるや帰宅時間について咎めた。優しいながらも芯はしっかりしていそうな印象だ。
「ごめん。ずっと学校にいて……」
「なんで? 部活もしていないのに」
正直者の仲井さんは、教室で絵を描いていたと結花さんに白状する。
ここは適当に学園祭の準備が始まった、とか言えばいいのに。行事も近いんだから。
それを聞いた結花さんがしかたない子だと苦笑いをひとつ零す。
きっと、仲井さんのイラストに対する想いを知っているんだろう。納得できるといった顔をしている。