ザァザァと音を鳴らす雨粒が何度もビニール傘を叩く。
その傘の下にいるぼく達はお互いに濡れないよう気を遣いながら、足並みを揃えて校舎を出た。
周囲の音は絶え間ないのに、ふたりの間に会話はない。
仲井さんがこの空気をどう思っているのかは分からないけれど、ぼく自身は息苦しさのあまりに胸が詰まりそうだった。
気まずいんじゃない。
嫌というわけでもない。
ただただ、息苦しいんだ。心臓がバカみたいにいうるさい。
「仲井さん。もうちょいこっちに来なよ。濡れる」
ふと、仲井さんの右肩が濡れていることに気付き、ぼくは詰めるよう促す。
「いいよ。これさえ濡れなければ……中井くんだって濡れているし」
大切な紙袋を腕に抱え、彼女はもっと傘の中に入って、と言葉を返した。
ぼくが濡れているのは元々だ。今さら濡れても大した差じゃない。
会話が途切れてしまう。
ぼく達の間に満たすのは雨音ばかり。
どうしてこんな空気になるんだろう。
いつもならもっと、気兼ねなく会話できるはずなのに。
「中井くんは家どっちなの?」
珍しく仲井さんから話題を切り出してくる。
二丁目郵便局近くの四つ角らへんだと言えば、彼女は自分の家と反対側だと声を上げた。
ただでさえチャリ通なのに、自分の家まで送らせてもらうなんて申し訳ないと思ったようだ。
遠慮がちに、この辺でいいと言ってくる。
それが面白くないぼくは、少し意地悪になってしまった。
「なら、ぼくは濡れて帰るさ。傘は仲井さんにあげるよ」
「そ、それは困るよ。傘は中井くんが買ったものなのに」
「三日もかけて描いたスケッチブックを濡らしたいの? お母さんの仏壇に飾るんだろう?」
それが嫌なら傘を受け取るか、ぼくに送られるかだ。
仲井さんを横目で見やれば、彼女は見事に“ヒヨコ”になっていた。
拗ねているわけでも、怒っているわけでもなく、単純に困っているようだ。
「もう遅いしね。ここは彼女の特権を使ってもいいんじゃない?」
期間限定カレカノという関係を忘れていないか。
仲井さんにそう言うと、彼女は力なく眉を下げた。