そうだ!
仲井さんと昇降口の前で空を仰いでいたぼくは、彼女にここで待ってくれるよう頼む。
きょとんとする仲井さんがどこに行くのか、と声を掛けてきたけど、再三再四そこにいるよう釘を刺して、外へ飛び出す。
すぐに制服が重くなり始めたけど、構わずに高校の敷地を出て、大きな坂を下っていく。
ぼくの通う高校は正門まで伸びる長い坂がある。
その坂を下った先にコンビニがあることを知っていたぼくは、そこへ飛び込むと、大きなビニール傘を一本買って仲井さんの下に戻る。
二本買わなかったのは、単純にお金がなかったからだ。
日頃の衝動買いが祟ったよ。
「お待たせ、ほら」
全力疾走で戻って来たぼくは肩で息をしながら、昇降口で待つ仲井さんにビニール傘を差し出す。
目を丸くする彼女を直視することができず、とりあえず大きめに声を出した。
「これで濡れないだろ」
「中井くん……わざわざコンビニで買ってきてくれたの?」
「誰かが買いに行かないと、傘は買えないじゃないか。台無しにしたくないだろ?」
おずおずと傘を受け取ってくれる仲井さんが、雨音に掻き消されそうな声で「ありがとう」と呟く。
うつむき気味だから、その表情はよく見えなかった。ぼくも見ようとは思わなかった。
ありがとう、がこんなにも照れくさいと感じるなんて思いもしなかったから。
「あ、あの中井くんはどうやって帰るの?」
彼女の上ずった声は気付かなかった振りをしてあげよう。
「ぼく? 走って帰るよ。もう濡れたし、傘はいらないから」
すると仲井さんが軽く背伸びをして、傘をぼくの方に傾けた。
見つめてくる目が訴えている。一緒に帰ろう、と。濡れて帰らないで、と。ひとりで帰らないで、と。
ぼくには、そんな風に言っているような気がした。
なんだよ。
それじゃあ意味ないじゃん。
せっかく濡れないために傘を買ってきたのに、ぼくが入ったら濡れるだろう。
大きいとはいえ、ビニール傘は一人用なんだから。
がんばってぼくを傘に入れようとする仲井さんから傘を取り上げる。
「早く隣にきて。家まで送るから。そしたら、ふたりとも濡れないだろ」