仲井さんとデッサンを始めて三日。
ようやく彼女が納得するヒマワリデッサンが完成した。
スケッチブックを二冊もヒマワリでいっぱいにした末の渾身の作品は、絵を描かないぼくから見ても一番の出来だ。五本も鉛筆を短くしただけはある。
明日からは、これに色を塗る。
仲井さんはぼくにデッサンを見せ、絵の具を持って来ると言ってきた。
「だから一緒に色を塗ろうね」
「はい? なんで。すごく良い出来なのに、ぼくも色を塗るとか、作品を台無しにするようなもんじゃないか」
「ヒマワリをリクエストしたのは中井くんじゃん」
そりゃそうだけど。
困ったように頬を掻くぼくに、仲井さんは一方的な約束を取り付けてきた。
お母さんの仏壇に飾るものだから、自分で全部やった方が良いと思うんだけど、仲井さんはそうじゃないようだ。
あの頃のように、誰かと色塗りをしたい気持ちがあるらしい。
正直、誘われて嬉しい自分がいる。
これはイラストからくる彼女の気持ちじゃない。
ぼく自身の気持ちだ。仲井さんとは、期限付きのお付き合い。気持ちが元通りに戻ればおしまいの関係なのに。
「今日はいつもにも増して遅くなったな。仲井さん、時間は大丈夫?」
「たぶん。今、何時かな?」
校舎が閉まるギリギリまで視聴覚室にいたぼくは、スマホで時間を確認する。
九時か。体育館には運動部がまだいるみたいだけど、帰宅部のぼく達にしてみればアリエナイ時間だ。
真っ暗な空からは雨粒が落ちているし。
昼間はあんなに晴れていたくせに、なんで雨が降ってくるんだよ。
傘なんて持ってきていないんだけど。
ムシムシとする空気に雨が降ると、余計に肌がべたつくじゃないか。
傘がないのは仲井さんも一緒みたいだ。紙袋に入ったヒマワリのアレンジメントとスケッチブックが濡れないか心配している。
後者は通学鞄に入れてしまえばいいのだろうけど、彼女の持参するそれはすごく大きい。
鞄に入れ込むのは大変だろう。
常に仲井さんの荷物は教科書でいっぱいだしな。
「家はどこ? 徒歩で帰れる距離?」
「うん。中井くんは?」
「ぼくはチャリ通だけど、今日は歩いて帰るよ。ただ、この雨がな」
ぽたぽた、じゃなく、ザァザァと勢いのある雨にげんなりとしてしまう。
家に着く頃にはびしょ濡れのずぶ濡れだろう。
ぼくはそれでもいいけど、仲井さんはそうじゃない。描いた絵とアレジメントがある。
お母さんの仏壇に飾るものなんだから、少しでも雨は避けたいだろう。