「もしもイラストを仕事にしたら、描きたくないものも描くんだろうな。おかしいね、本気で目指しているのに、どこかで尻込みする自分もいるの。これがお父さんの言う“人生は甘くない”なのかもしれないけど」


「趣味と仕事は違うって言うもんな」

「こんな自分を目にすると、わたしは考えるの。もしも、わたしからイラストを取ったら何が残るんだろう……って。べつのわたしがいるのかなって」


それがあの衝突事故で現実のものとなった。

イラストに対する気持ちがぼくと入れ替わり、彼女は映画に興味を持った。


あんなにイラストに対して向上心を持っていたのに、それが薄れるどころか消えてしまった。

これがべつのわたしなのか、と仲井さんは客観的に自分を見つめているそうだ。


「お母さんの思い出がなかったら、わたしはべつの何かに熱中していたのかもしれない。中井くんの気持ちを持った今だからこそ、それを強く思うの。映画監督でも目指していたかもね」

「ぼくは映画監督なんて目指していないけど?」

「分かっているよ。ただ、ありえない話じゃないでしょ。好きなものから夢を持つなんて、よくある話だし」


ちょっとした思い出や出来事から好きなものや、持つ夢が変わる。

それはとても不思議なことだと仲井さんは語り、それを踏まえてイラストが好きな自分と向き合って思うそうだ。


「イラストを描く自分が好きだったんだなって。少しずつ絵が上達する自分が、その絵が好きだったんだと思うの」


離れて分かる、自分の気持ちだと仲井さん。

それまでは自分にはイラストしかないと思い込み、必死に絵を描いていた。


だけど、本当はそうじゃなくて、イラストを描く自分を含めて、絵を描くことが好きだった。

ぼくの気持ちが宿っている今だからこそ、自分の気持ちが見えたと彼女は目尻を下げる。