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翌日から仲井さんのヒマワリデッサンが始まった。
てっきりネットから画像を拾って、そのヒマワリを見ながら描くと思っていたのに、彼女は生のヒマワリを見ながらデッサンをすると宣言した。
でもぼく達の高校に花壇はあれど、ヒマワリは植えられていない。
だから、生のヒマワリを見ながらデッサンなんて無理だと思っていたんだけど、そこはイラストレーターを目指す仲井さんが行動を起こした。
わざわざ花屋で、小さなヒマワリのアレンジメントを買って、こっそりと自分のロッカーに隠したんだ。
そして放課後になると、それを視聴覚室まで持って来てデッサンをする。
まさかそこまですると思わず、ぼくは仲井さんの行動力に舌を巻いた。
だけど仲井さんは思い入れが強いようで、このアレンジメントと自分の絵をお母さんの仏壇に飾るのだと教えてくれた。
毎年、命日にお母さんの好きな花が描けず、何も飾れなかったから、これをお詫びとして飾るのだと言う。
それを聞かされてしまえば何も言えない。
ぼくは仲井さんに付き合った。
もちろん、彼女の気持ちがぼくを突き動かすのも理由として挙げられるんだけど、ぼく自身も見たかった。仲井さんが本気で絵を描く姿を。
本来、彼女が持つイラストの熱意はぼくが持っているんだ。付き合わないわけにはいかないじゃないか。
アレンジメントは小さなカゴに入ったヒマワリで、それはリボンや名も知らない花と一緒に飾られていた。
彼女はそれを何枚もデッサンをした。スケッチブックをめくっては、自分の納得いくまで絵を描いていた。
ぼくもデッサンをしていたんだけど、途中から仲井さんの絵を描く姿を見つめていた。これが仲井さんの本気なんだと、感動すら覚えながら。